東京地方裁判所 昭和63年(ワ)11231号 判決 1989年11月16日
原告
株式会社協和クレジットサービス
右代表者代表取締役
斎藤正
右訴訟代理人弁護士
杉野翔子
同
藤林律夫
被告
岡田通夫
右訴訟代理人弁護士
佐藤雅美
主文
一 被告は、原告に対し、金三四一万二三三九円並びに内金三九万五三七四円に対する昭和六三年七月一二日から支払済みまで年29.3パーセントの割合による金員及び内金三〇一万六九六五円に対する平成元年二月一四日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
四 この判決は、第一項、第三項に限り仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金三四一万二三三九円及びこれに対する昭和六三年七月一二日から支払済みまで年29.3パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告
原告は、クレジットに関する業務、金銭の貸付及び信用保証業務等を業とする会社である。
2 クレジット及びローン契約
(一) 原告は、昭和六一年三月二四日、被告と、左記の内容の協和VISAカード会員規約契約(以下、本件クレジット契約という。)を締結した。
(1) 被告がVISAカード加盟店(以下、加盟店という。)から、原告の貸与したカード(以下、本件カードという。)を呈示して所定の伝票に署名する方法で物品の購入又は役務の提供を受けた場合は、原告は、加盟店が被告に対して取得した右の売買代金を譲り受ける。被告は、右の債権譲渡をあらかじめ承諾する。
(2) 被告は、原告が毎月一五日までに加盟店から譲り受けた代金債権につき、その翌月一〇日(当日が銀行休業日の場合は次の銀行営業日)に弁済する。
(3) 右の譲受債権についての遅延損害金は、年29.3パーセントとする。
(二) 原告は、昭和六二年六月一三日、被告と、左記の内容の協和メンバーズローン・ミニ契約(以下、本件ローン契約という。)を締結した。
(1) 被告は、本件カードを使用して、原告の指定する現金自動支払機により、原告から継続的に金員を借り受けることができる。
(2) 原告は、毎月一五日現在の貸付金残高及び同日までの利息を、翌月から毎月一〇日(当日が銀行休業日の場合は次の銀行営業日)に金一万円宛分割弁済する。
(3) 利息 年16.2パーセント
(4) 付利単位 金一〇〇円
(5) 遅延損害金 年29.3パーセント
(6) 被告が、原告に対する債務の一つでも期限に弁済しなかったときは、当然に期限の利益を失い、ただちに本件ローン契約に基づく債務の全額を支払う。
3 主位的請求
(一) 被告は、本件クレジット契約に基づき、別紙各種サービス(クレジットサービス)記載のとおり物品を購入し、役務の提供を受けた。その結果、原告は、加盟店から同別紙記載の日に右の代金債権を譲り受け、同記載の支払期日を弁済期とする合計三一二万六九六五円の代金支払請求権を取得した。しかし、被告はこれを弁済しない。
(二) 被告は、本件ローン契約に基づき、協和メンバーズローン貸付・返済表記載のとおり借り受けた。同人は、同表「返済額」のとおり弁済したので、その債務残額は同表「残高」のとおり二八万五三七四円となった。
しかし、その後、被告は右債務の弁済をしないので、期限の利益を喪失し、直ちに右債務残額を支払うべきこととなった。
4 予備的請求
(一)(1) 仮に、被告が別紙各種サービス(クレジットサービス)記載の物品の購入又は役務の提供を受けていないとしても、被告は、訴外中田円蔵(以下、中田という。)に本件カードを交付した。
(2) 本件カードが被告名義で使用され、別紙各種サービス(クレジットサービス)記載のとおり物品の購入がされ、役務の提供がされた。
(3) 被告は、昭和六三年六月一四日、本件カードを使用してされた右の物品の購入又は役務の提供の全ての取引を追認した。
(二)(1) また、本件クレジット契約には、「カードの所有権は当社に帰属しますので、会員が他人にカードを貸与・譲渡および質入する等カードの占有を第三者に移転させることは一切できません。」という約定があった。
(2) 被告は、前記(一)(1)のとおり、中田に本件カードを交付した。
(3) そのため、本件カードが使用されて別紙各種サービス(クレジットサービス)記載の各取引がされ、原告は右取引について、加盟店にその代金を支払った。
(4) したがって、原告は被告に対し、債務不履行に基づき、本件カード使用による代金相当損害金三一二万六九六五円の損害を被った。
よって、原告は、被告に対し、主位的にクレジット契約に基づく譲受代金三一二万六九六五円及びローン契約に基づく貸金二八万五三七四円の合計金三四一万二三三九円並びにこれに対する弁済期の後である昭和六三年七月一二日から支払済みまで約定利率年29.3パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求め、クレジット契約に基づく譲受代金については、予備的にその追認に基づき又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき金三一二万六九六五円及びこれに対する弁済期後である昭和六三年七月一二日から支払済みまで約定利率年29.3パーセントの割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2(一) 同3(一)の事実は否認する。
(二) 同(二)の事実は認める。
3(一) 同4(一)(1)の事実は否認する。
(二) 同(二)(2)の事実は認める。同(3)、(4)の事実は否認する。
三 抗弁(本件クレジット契約の債務不履行について)
被告は、昭和六三年四月下旬、本件カードが不正に使用されていることを知り、直ちにその旨を原告に電話で連絡をし、本件カードを無効とする措置を取るよう申し出るとともに(以下、右の申出を本件申出という。)、同年五月二日、あらためて原告の担当者に事情を説明して本件カードを無効とする取扱いをするよう依頼した。
四 抗弁に対する認否
抗弁の事実のうち、被告が四月下旬に本件申出をしたことは認めるが、五月二日の点は否認する。
被告が本件申出をしたのは、四月二八日である。
五 再抗弁
原告は、被告からの本件申出に基づき、直ちにコンピュータに本件カードの無効登録をするとともに、VISAカード本部に連絡し、緊急無効通知書(原則として毎週一回土曜日に発行され、加盟店のうちVISAカード本部が選定したものに配布される。)及び定例無効通知書(原則として毎月一回月末に発行され、加盟店のうちVISAカード本部が選定したものに配布される。)に本件カードを掲載する手続をとった。その結果、昭和六三年五月一〇日付、同月一四日付、同月二一日付、同月二八日付の各緊急無効通知書に、同月末日の定例無効通知書にそれぞれ本件カードの無効通知が掲載された。
ただし、原告と加盟店との間では、定例無効通知書へのカードの無効通知の掲載をもって正式の無効通知とし、右通知書の配布を受けた後に加盟店がその記載を看過してした信用販売については加盟店が責任を負担する旨の合意がある。
六 再抗弁に対する認否
再抗弁の事実は不知。
仮に、原告がその主張する措置をとったとしても、被告が本件申出をした当時、原告には本件カードの不正使用先が知れていたのであるから、原告は、これらの加盟店に通知をするとともに、これから推測される今後不正使用者が立ち寄りそうな加盟店に本件カードの無効を手配する義務があった。しかし、原告は、緊急無効通知書及び定例無効通知書を配布したのみであり、これにより本件カード使用による損害が拡大した。したがって、被告の本件申出後に原告に生じた損害は、これを被告が負担する義務はない。
第三 証拠関係<省略>
理由
一1 請求原因1、2及び3(二)の事実はいずれも当事者間に争いがない。
2 そこで、次に被告が別紙各種サービス(クレジットサービス)記載の物品の購入及び役務の提供を受けたか否かという原告の主位的主張について検討する。
(一) <証拠>によれば、被告は、昭和六三年三月初めころ、中田に本件カードを、被告の信用の裏付けとして交付したこと、別紙各種サービス(クレジットサービス)記載番号1の取引が同月九日にされていること、及び右取引の伝票に該当する甲第三号証の一にされている被告名義の署名が被告の署名に酷似していることがそれぞれ認められる。
(二) また、被告が、同月一三日に本件ローン契約に基づいて本件カードを使用して二万円を原告から借り受けた事実は、当事者間に争いがない。
(三) 前記(一)、(二)の事実によれば、別紙各種サービス(クレジットサービス)記載番号1の取引は被告がしたものと認められ、被告本人尋問の供述中右認定に反する部分は採用することができない。右の事実によれば、被告は原告に対し、弁済期を昭和六三年五月一〇日とする金一一万円の譲受債権の支払義務を負っていることになる。
(四) その余の別紙各種サービス(クレジットサービス)記載の取引については、これを被告がしたものと認める証拠がない。<証拠>によれば甲第三号証の二から五八までの売上票等に記載の被告の署名が被告によりされたものと認めることができないので、これをもって被告が右の取引をしたものと認めることはできない。
二そこで、被告が別紙各種サービス(クレジットサービス)記載の取引を追認したという原告の主張について検討するに、これを認めるに足りる証拠はない。
確かに、<証拠>には、被告が、昭和六三年六月一四日に追認をしたものと解される部分があるが、同日現在、別紙各種サービス(クレジットサービス)記載の七月分の取引金額が確定しておらず、甲第一二号証の公正証書作成の委任状も取引金額等が記載されておらず、未完成のものであり、これをもって被告が前記の追認したものと認めることができない。
三次に、原告が主張する被告の本件クレジット契約の債務不履行について検討することとする。
1(一) <証拠>によれば、本件クレジット契約には、「カードの所有権は当社に帰属しますので、会員が他人にカードを貸与・譲渡および質入する等カードの占有を第三者に移転させることは一切できません。」との約定があったことが認められ、また、前示一2(一)のとおり、被告は昭和六三年三月初めころ、中田に本件カードを、被告の信用の裏付けとして交付した。
(二) そして、<証拠>によれば、別紙各種サービス(クレジットサービス)記載番号2から58までの取引は本件カードを使用してされたことが認められる。また、本件口頭弁論の全趣旨によれば、原告が右取引に係る代金を加盟店に支払ったことが認められる。
2 これに対し、被告は、抗弁として原告に本件カードについて無効とする措置を求めた旨主張するところ、<証拠>によれば、被告は、昭和六三年四月二八日、原告の担当者に本件カードを中田に渡したことを告げ、右カードを無効とするよう本件申出をしたことが認められる。
3 <証拠>によれば、原告は被告の本件申出に応じて、本件カードに係る緊急無効通知をコンピュータに登録し、同年五月一〇日付、同月一四日付及び同月二一日付の緊急無効通知書が加盟店に配付され、同月二七日に原告により本件カードが回収されたことが認められる。
この点、被告は、本件申出に対する原告のした措置の程度では原告はその義務を尽くしていない旨主張する。しかし、<証拠>によれば、クレジットカードについて無効の措置を求める申出は多くされていることが認められ、この申出に対し被告が主張するような措置を取ることは事実上困難であるものといわざるを得ず、また、被告についてだけその主張するような措置を取らなければならない事情も認められず、更に、本件申出後も不正に使用されてはしまったが、原告の取った措置により本件カードが回収され、損害の拡大が防止されているので、この点に関する被告の主張は採用することができない。
4 以上の事実によれば、原告は被告に対し、本件クレジット契約の債務不履行により別紙各種サービス(クレジットサービス)記載番号2から58までの取引に係る代金三〇一万六九六五円相当の損害賠償請求権を取得したこととなる。ところで、右債権は期限の定めのないものであるが、原告は、これを被告に請求したことを主張、立証しないところ、これに対する遅延損害金は、原告が右債権を本訴において被告に請求した平成元年二月一三日の第四回口頭弁論期日の翌日から生じることになる。また、本件クレジット契約には遅延損害金の約定があるが、右の約定利率は前記一1のとおり右契約に基づく譲受債権に係る遅延損害金であるところ、前記債務不履行による損害賠償金には適用がないものといわざるを得ず、これに適用される約定利率の主張、立証がないところ、その利率は商事法定利率によることとなる。
以上の次第で、原告の請求は、本件クレジット契約に基づく譲受債権金一一万円、本件ローン契約に基づく貸金債権金二八万五三七四円及びこれらに対する弁済期の後である昭和六三年七月一二日から支払済みまで約定利率年29.3パーセントの割合による遅延損害金の支払い、並びに本件クレジット契約の債務不履行に基づく損害賠償金三〇一万五九六五円及びこれに対する請求の日の翌日である平成元年二月一四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条但書を、仮執行宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官平賀俊明)
別紙<省略>